19世紀の中国の貨幣量と景気

http://togetter.com/li/216907togetterで、梶谷先生がこんなツイートしてたのを見ました(http://togetter.com/li/212822経由で発見したのは内緒)
。こういうプロの意見を学会いかなくても見れるんだからツイッターってのはありがたいねえ。

吉澤誠一郎氏の『清朝と近代化』岩波新書には、通俗的な「停滞」イメージに反し19世紀後半の清国経済は国内流通の整備と一次産品の輸出増大、海外からの華僑送金で活性化し成長していたと書いている。ただこれはむしろ19世紀前半の「大分岐」により生産力に差がつき一次産品に比較優位を持つようになったことと、世界的な金本位制への流れで銀貨が下落を初め、銀を本位通貨とする清朝に長期的なインフレ圧力が働いたことの効果でかなり説明が可能だと思うのだが。数量経済史などではこの点は強調されていないのだろうか。(修正有)

19世紀清代経済史に計量経済分析なんてないっすよ(無理っすよ)、というのが最初の感想ですが、金本位制の確立とか華僑送金とか以前に、1860年代に金銀の生産量自体が増えたので、インフレ圧力出現っていう話なら結構よくある話(吉澤pp.155-156)その割には賃金上がってないけど…(Allen, Bassino, Ma, Moll-Murata, van Zanden, 2009)。米価も上がってるようには見えないですなあ(王業鍵2010)。19世紀末の最後の10年に限定するなら、物価上昇は金本位制の影響なんだと思いますが…。
ともかく、銭と銀とが絡むんで、単純に貨幣数量説で説明できないところがあるのが、清代中国経済のめんどくさいところなんだよなぁ…。


あと、
関税自主権なしの世界経済への統合と銀価下落によるインフレ圧力により成長した19世紀後半の清国経済は、「デフレを放置したままでTPPに参加しても意味がない」ことの見事な傍証になっていると思うのだが。

これなんだけど…、結局、世の中うまく行くかは景気次第、というか根本的なところは政策ではどもならんという感じがしてきてしまいます。ところで、「関税自主権なしの世界経済への統合と銀価上昇によるデフレ圧力により衰退した19世紀前半の清国経済」って話はこれまたよく聞くけど、これを実際に証明した人はまだいないよね…。