誰のために書くか

岩波『思想』で、グローバル・ヒストリーの特集やってました。

思想 2018年 03 月号 [雑誌]

思想 2018年 03 月号 [雑誌]

つっても、岸本美緒「グローバル・ヒストリー論と『カルフォルニア学派』」しか読んでないけど。もう痛快。痛快なんだけど、モニョるところがないわけでもありませんでした。

ポメランツとか、フランクとか、結局、誰を対象に書いてるかといえば、英語しかできない、あんまり世界が広くないアメリカのインテリさんを相手にしてるんであって、世界全体のシノロジストとか経済史家とかを相手にしているわけではないんだな、ということがよくわかりました。

そういう意味では、ドイツの人が言うグローバル・ヒストリーとか、イギリスの中国史研究とか(フランスはしらん)と、ちっともかみ合わないのは当然だし、よくわからんけど蓄積がやたら厚い日本の支那学・東洋学の人たちが、「グローバル・ヒストリー」を実証性に欠けるっつってバカにするのも仕方ない、というか、顧客が違うんだからしゃあないやん、という話なんでしょう。

グローバル・ヒストリーの可能性

グローバル・ヒストリーの可能性

この話は、昨今話題の、科研費でやった研究は誰のものか、みたいな議論ともかかわるんだけど、研究が行われる社会のニーズを無視して、研究者の趣味だけで研究が進むっていうのもあんまりない気もするんですよね(地域社会論だって、80-90年代の日本の状況が反映してるんじゃ…)。研究者も社会で生きてる人間だし、カネも取らないといけないし。以下のようなカリフォルニア学派に対する批判も、中身はその通りなんだけど、彼らもアメリカ合衆国というバカばっかりの(バカしかいない?)国で生きてかないといけないので、英語ではできないよな、という話なのかもしれませんね(日本語とか中国語ならいくらでも言えるし、それなら多分先方も実証性をめぐる議論とかで受けて立ってくれる気もする)

18世紀以前のアジア、特に中国の先進性を強調するカリフォルニア学派の主張が現在なぜ影響力を拡大しているのか、を考えてみる時、20世紀末以降の中国の経済成長、大国化という事態がその背景にあることは否定できないであろう即ち、水島司が前述の説明で、「東アジア諸地域の急速な経済成長や、中国やインドの近年の経済大国化という現実の世界での劇的な変化」をグローバル・ヒストリーの背景として指摘している通りである。このような問題関心は、とくにフランクの『リオリエント』などには、はっきりと表明されている。とするならば、「既知の結果」から出発して歴史の中にその原因を探る、という点では、「西洋の勃興」に関する旧来の通説とカリフォルニア学派との間には、それほどの違いはないといえるのではないか。両者の違いは、方法の相違というよりも時勢の変化に規定されたもので、今後もし、新たに勃興する地域が出てくるならば、その地域の歴史のなかにその原因が探られることになるのであろう。そして、歴史学の関心の焦点は、いわば現実の強者・勝者の後に追随してめぐってゆくということになるのかもしれない。(岸本、89ページ)

まあ、科研費いらんやん、と言い切った論者だからなあ、という気もするが…。しかし、スポンサーがいるからね、という話は、本来は学究としてはおかしいよね、と言うのは正論すぎる正論ですが、一方で読者はいるわけだし、狭義の専門家のなかで支持を受ければ良いというものでもないのでしょう(しかし、支持されてないのは言語道断。「学界の連中はわかってくれない」とかダメだろう)。グルグルまわっているんですけど、学術研究の成果(特に人文・社会科学)はスポンサー・読者と、狭義の専門家の理解をバランス良く獲得していくしかないんだろうねえ、というヌルいことしか思いつかないのでした。それができるヒトはあんまりいない。岸本美緒先生はその稀有な例外なんでしょうけど、でも新書はないしねえ…。リブレットがあるからいいのか。でも市定は偉大だったね、がファイナルアンサーなんかな。しかし、今上が若い頃に取り上げても雍正帝現代日本では別にメジャーじゃないしな。あ、それとも、「そういう余計なこと考えないで分析すんのが研究者だろ」という話かね。そうするとウェーバーに戻るのか…。100年変わってないんですかね、この世界。

読者のほうとしては、出て来るものを楽しく読んでればいいので、気楽なんですがねえ。


グローバル・ヒストリー入門 (世界史リブレット)

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グローバル・ヒストリーとは何か

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大分岐―中国、ヨーロッパ、そして近代世界経済の形成―

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リオリエント 〔アジア時代のグローバル・エコノミー〕

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職業としての学問 (岩波文庫)

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