【読書】岡本隆司『袁世凱』

康有為なる人物の一言で表現するなら、思想家というべきだろう。しかも重厚深奥な思索者ではなく、既成理論をあてはめるタイプの知識人に属し、性格はむしろ軽薄とみたほうがよい。…かれを登用した光緒帝も、冷静沈着という印象をまるであたえない君主である。…要するに、軽躁という点で好一対、相似た主従だった。(79-80頁)

微妙な立場に立たされた場合、このように旗幟をむしろ鮮明にするのが、かれのやり方である。朝鮮のときもそうだった。まだ四十代になったばかり、若さのあらわれなのかもしれない。(104頁)

袁世凱の先輩・清朝の名臣に限ってみても同じ、曽国藩はいわば、アイドルだった。かれよりもはるかに能力も実績もあったはずの李鴻章は、実務家ゆえに必ず格下にみられる。それでも雄大な体躯、豊かな経歴に裏づけられた威厳があった。それも虚飾にほかならない。
袁世凱には、それすらなかった。(214頁)

チビで人懐こいテカテカコロコロしたデブですからねえ…。そこを書かなかったのは、著者の優しさ、というか微言大義ってやつですか。まあ、そういう話は書かない、ってあとがきで宣言されてますけどね。とまれ大変面白く読みました。買って読むべきですね!

基本、ノリノリな感じの筆致です。日清戦争前から辛亥革命までを、政治・経済構造に目配せしながら一気に説明します。このころのざっくりした概説としては出色ですよ。政治過程にあんまり踏み込まずに、ちゃんと構造的な説明をするあたりがたまりません。(ただ、どっかに書いてありましたが、そもそもの流れを知らないとついていけない、というのはたしかかも)
特に日清戦争以前の朝鮮問題で、ザクザクと切り込んでゆく様は痛快です。この辺はやはり著者的に得意な時期なんでしょうね。で、著者は袁世凱本人はあまりお好きでないようですが、それ以外の連中はもっとお嫌いなんだろうなあ。康有為と光緒帝、宣統政権のひとびと、革命派…と。ようするに西太后世代よりも若い連中があまりお好きでない、ということなんでしょうか。19世紀末を中心にみてるとやっぱりそうなりますよね。よくわかる。
というわけなんで、辛亥革命あたりからが何だかざっくりした感があふれてきてしまうのは仕方ないかもしれません。まあ、そこは民国やってる先生方に期待したいところです。それでもなんつうか、再評価が可能なのは国民政府期になってからなんかな、という気がしますが。やっぱり北京政府期はどう考えても北京も広東もダメダメだろ。

どうでもいいんですが、85頁の写真みてると、梁啓超と譚嗣同は主役の顔をしてるなあ、としみじみ。やっぱなにごともイケメンに限るんすかね。