読書:檀上寛『天下と天朝の中国』
- 作者: 檀上寛
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2016/08/20
- メディア: 新書
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読みました。
読後感は、「うーん・・・」でした。
やっぱりねえ、思想で通史は無理なんだと思うんですよ。
もちろん、政治史的な形では結構面白いんですよ。洪武帝の「恐怖政治」の論理とか(203‐205頁)。でも、「天朝」と「天下」はあんまり関係ない気がするんですよね。
「歴史的に貫徹する中国人の心性」みたいな話になると、いやそりゃないだろう、と。だって、日本人に歴史的に貫徹する心性なんてあります?ないよ。「和をもって貴しとなす」とか?そもそもこういうこと書いてる時点で、「当時は和が尊ばれてないんだなあ、空気よむやついなかったんだろな」としか思われんではないですか。
個別で気になる点としては「中国」=「中原」になってるあたりで、遼がイメージしてる「中国」は具体的に唐なんじゃないかな、とか(152頁)。「中華帝国の外被」というのも、漢地・漢文向けでそれ以上でもそれ以下でもないんじゃないかな、とか(170頁、232頁)。むしろ「大元(ダイオン)」を国号にしてる点は、「漢地」の論理に対する挑戦なんじゃね、とも思います。
ちょっと笑ったのは、袁世凱は「自分の欲望のままに行動する掛け値なしの権力亡者であった(267頁)」っつうとこでした。孫文もなかなか革命亡者だと思いますけど、そっちはいいんですか。いいんかな。
読書:岡本隆司『中国の論理』
- 作者: 岡本隆司
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2016/08/18
- メディア: 新書
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読みました。
安心の岡本隆司節でありました。
これまでの一般向けの書籍が社会経済モノであるならば、こちらは思想バージョンといったところでしょうか。
しかしですね、読後感としては、結構しっくりこないところがありました。
「そもそも中国の論理なんてもんを歴史的に一貫して議論できるの?」という点です。儒教の話が出て来て、伝統中国は大体儒教の用語を利用しないと文章が組み立てられなかった、みたいな感じで書いてあるんですが、どこだって共通の用語と文脈と含意なしでは議論なんかできんでしょう。中国ではたまたまそれが儒教の経典の言葉であっただけで、中身はどんどん移り変わっているはずなわけですよ。(ということを著者自身がどこかで言ってる気もしますが)
新文化運動(181‐183頁)がもたらしたのは、新しい共通の語彙でしかないのではないですか。そしてそれは「「士」「庶」の隔絶をも、なくしていく」ものではないのではないですか。結局、新文化運動によってもたらされた「古来の典故によらず、あくまで直截明晰、われわれもすぐわかる」のは、語彙と文脈と含意を「われわれ(日本で教育を受けたもの)」も教育によって、共有しているからにすぎないのではないですか。そして、その教育を受けられ、血肉にできている、すなわち、陳独秀の文章(翻訳であれ)を理解できるのは、「われわれ」が「士」だからなのではないでしょうか。「庶」との隔絶は、世界のどこを見てもなくなっているとはおもえません。
20世紀第一四半世紀に中国が経験した大変動は、やはり社会経済から説明されてしかるべきだと思います。というか、やっぱりねえ、思想で通史を語るのは難しいんじゃないかなー、と再認識しました。だって、西ヨーロッパの歴史、ギリシャ古典で語るの筋悪でしょ。
そもそもね、いうほど「中国は不可解」なんでしょうかね。結構突き詰めると理解できるところは結構あるというか、むしろフランスの世俗主義行き過ぎてブルカ剥ぐみたいな方がよっぽど不可解ですけどね。もちろん「同文同種」とかありえないんだけど、それでもやっぱり、東アジアは違う違う言っても近いですよ。自民党の憲法案と人民共和国憲法が似てるというのもいわれがないわけではないんじゃないですかねえ。
日本と中国、「脱近代」の誘惑 ――アジア的なものを再考する (homo viator)
- 作者: 梶谷懐
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2015/06/06
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読書:祝田秀全『銀の世界史』
- 作者: 祝田秀全
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2016/09/05
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読みました。
予備校の先生が書かれた、世界史の本です。つまり、いい大学を目指す受験生はこれくらいわかってないと困るよね、というもので、そのつもりで読むと、結構要求高いなあ、という気はします。それにしても、よどみなくうまく書くもんだなあ、としみじみ。
文句はあるんですよ。
1:「世界史」っつっても、西洋史じゃんか、これ、っていうのが。
「銀の世界史」と銘打って、モンゴルの話、ゼロですからね。それじゃ、なんで中国が「銀のブラックホール」だったんかわからんやん。まあ、初めのほうにイギリス中心で、って書いてあるんで仕方ないんですが。
- 作者: 杉山正明
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/04/12
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2:イギリスがアヘンを清朝に持ち込むのにアメリカ手形の話をしないのもなー。つ【好評既刊欄の『近代中国史』】
- 作者: 岡本隆司
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/07/10
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3:イギリスの金融革命の話ないと、なんでイギリスやオランダに国債を引き受けられるだけのカネがあったかわかんないと思うんですけど…。
- 作者: 坂本優一郎
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2015/02/28
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最近は西洋史でも、アジアが分からんといかん、というのが流行りみたいで、以下の本も出ています。
- 作者: 南塚信吾,秋田茂,高澤紀恵
- 出版社/メーカー: ミネルヴァ書房
- 発売日: 2016/02/15
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あとね、参考文献に出版年が入っていない、とかね。わざとかな。
岩波講座の論文が引かれまくってるんですが、1997年から出てた新版なんですが。微妙に古い気がします。なんせもう20年近く前なんだよなー。それにしても岩波講座って影響力有るんですね。「岩波講座所収の論文なら定説あつかいしてもいい」という文科省の人の発言があったとかいうのもなるほどなー、と。
専門書もリストに入ってないんですよね。ぜったい『茶の世界史』と『砂糖の世界史』は読んでるはずなんだけどこれも入ってない。あと、入ってる専門書が黒田明伸『貨幣システムの世界史』で、中国史クラスタ的にツボでした。どこが著者の琴線に触れたんかな。
茶の世界史―緑茶の文化と紅茶の社会 (中公新書 (596))
- 作者: 角山栄
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1980/12/18
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- 作者: 川北稔
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1996/07/22
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貨幣システムの世界史 増補新版――〈非対称性〉をよむ (世界歴史選書)
- 作者: 黒田明伸
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2014/03/20
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最初の近代経済 -オランダ経済の成功・失敗と持続力 1500~1815-
- 作者: J・ド・フリース,A・ファン・デァ・ワウデ,大西吉之,杉浦未樹
- 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
- 発売日: 2009/04/15
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誰と戦っているのか
実情と乖離した日本の「共産主義礼賛」中国研究の破綻(楊海英/2016年8月23日 NEWSWEEK)
http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/08/post-5693_1.php
読みました。
いや、いまどきいねえだろ、こんなん。今でも、研究者は大陸いったら幹部に歓待されるんですか。ははは。
定年前の耄碌ジジイにならいるんかね、「共産主義礼賛」。しかしそんなんもはや影響力すらあるまい。カルチャーセンターとかに来てるおじいちゃんおばあちゃんにならこういうのいるんだろうけど、そんなんを研究者一般に敷衍されても困る。
楊海英先生は誰と戦っているというのか。
まえに子安宣邦先生が誰と戦ってるんだ、という話を書いたことがありますが、今時おらんやろ共産革命万歳とか。ジャスミン革命万歳、雨傘革命万歳だってバカにされるこのご時世に。
穴にはまってない中国
中国ネタといえば、毎度毎度穴にはまる子供なのですが、今日のワイドショーを眺めていたら、だいぶ雰囲気違いました。
【傅園慧選手】見ると元気が出る!中国の水泳選手、天然キャラで世界中で人気爆発(GIF付き)
http://matome.naver.jp/odai/2147109206454310401
競技直後に結果確認してないのは、近眼だからじゃね、としか思いませんが、まあこういう人がメダル取るようになったんだから、中国も(いいほうに)変わったなあ、としみじみ。
もうすこしで21世紀生まれが発言するようになって、更に10年経てば、清朝崩壊100年が出てくるわけですから、まあ、いろいろ変わって話もしやすくなりそうです。
選挙結果に納得がいかないひとたちの呼び声
東京都知事選挙も、午後八時にカイロ大学学士さんに当選確実がでまして、オリンピックを迎えた国際都市東京の首長に、アジアアフリカの大学出た女性がなったというのは、本人の主義主張はともかく、いいんじゃないすかという感じです。
ま、台北市長(陳水扁、馬英九)とかソウル市長(李明博)とかと違って、東京都知事には、その後の展開はあんまりないので、見た目がしっかりしてりゃ、だれでもいいちゃあ、だれでもいいわけですが。そんなに権限ある訳じゃないし。一番無理やって、被害出たところが首都大と首都銀でしょ。たいしたことないよ。銀行は知らんけど、首都大また都立にもどすんでしょ(まて
ところで、民主党系の人が負けると、いつも出てくる「民主主義は死んだ」ですが、最近はもう「民主主義」も死んで久しいらしく、最近のトレンドは「不正選挙」になってますね。「政治的な力」とか。え、選挙って選挙民が政治的な力を行使する場だから、あんた負けたの「政治的な力」じゃなくてなんなんすか、と。
「不正選挙」ってのは、こうもっと殺伐としてるんですよ。投票箱劫奪とか村民全員分の投票用紙まとめて記入とか。
そもそも選挙結果を認めるかどうかとか。つかねえ、五年前に南スーダン行ってきた人とかもいるんだから、そこから聞いたらいいんじゃないの(なお、これは嫌味です、念のため)。
参考:
2011年スーダン住民投票監視団が発表した所感(PDF形式:95KB)
www.pko.go.jp/pko_j/archive_jp/jisseki/sudan/sudan07_04.pdf
南スーダン自衛隊派兵/PKO参加5原則崩れる/延長の正当化成り立たず(しんぶん赤旗)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik16/2016-07-31/2016073102_01_1.html
国連安保理、南スーダンPKOの延長を決議 8月上旬まで(サンケイ)
http://www.sankei.com/world/news/160730/wor1607300030-n1.html