読書:『中国は東アジアをどう変えるか』(中公新書)

安定の中公新書です。ほんと、アベレージヒッターだわ。よみうりに買収された当初はどうなるかと思ったけど…、安心と安定の中公新書https://twitter.com/chukoshinsho

で、表題の本も安定した良書でした。

中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)

中国は東アジアをどう変えるか ? 21世紀の新地域システム (中公新書 2172)

内容は、中華人民共和国とシナ海沿岸諸国(ビルマ含む)の国際関係をさらっと概説し、後半では「チャイニーズ」の多元性・多様性とその役割について紹介するものです。引用文献も一般向け(?)書籍が多い気がしました。

興味を引いた部分を以下にメモをしておきます。

26-28頁:強硬路線に押され、中華人民共和国政府の「戦略的外交政策決定能力は低下」

昔みたく領導が全部決めるわけにもいかず、合意形成をしないといけないので、強硬な世論を無視できないということでした。確かに70年代みたいな対外政策はできんだろうなあ。
この件は唐亮『現代中国の政治』にも関係しますな。

36頁:「中国が、その台頭とともに、責任ある大国として、東アジア秩序の維持、発展のために行動するよう、この地域の国々が連携して促していく」

まあ、それしかないですよね。しかし、今でも中華人民共和国から来た人とかと話をすると、「中国は貧しい!」っていうんですよね、まだ。日本人も大概、日本の経済的な影響力を小さく見積もりがちな気がするけど、中華人民共和国もいつまでも発展途上国のつもりってのもなあ。ナントカならないものでしょうか。

118-121頁:中国の「国家資本主義」モデルによる経済協力(介入?)をたびたび行う事例が増加。ただし、他の多国籍企業が国際的な事業慣行の貫徹を要求し、選挙によって政治エリートが循環すれば、長期的かつ安定的な「癒着」をもとにする中国の経済協力は拡大しようがない。(大意)

そうだろうなあ。関係を突破口にしようとする限りはね。しかし、そこしか中国の技術の優位性ってないんじゃないのかな…。そこが今後の中国の対外貿易の課題ですかねえ。

123-124頁:「近年の中国の台頭を議論するに際し、しばしば、かつて中国がその勃興に際し、なにをして、どのような「国際」秩序をつくったかが、ほとんど亡霊のように、どこかで意識され、また語られる。…(中略)…近年、中国の台頭にともなって、よく登場する亡霊は、これとの比較でいえば、朝貢システムだろう。あとでも紹介する通り、中国の台頭にともなう東アジアの変容を朝貢システムの観点から論じる研究者は、中国でもその外でも少なくないし、世界システム論の研究者の中には、朝貢システムを概念的に拡張し、その上に東アジアの秩序を構想しようとする試みもある。こういう亡霊はお祓いするしかない。」

いやほんと、簡単に昔のアナロジーで語るのはいけないですよねえ。ガンガン祓っていかねば!!簡単に歴史上の適当な概念で現実を語ろうとするのはだいたいトンデモですよ!
ただねえ、「朝貢システム」とか「互市システム」とか、特に前近代中国史をやってる人の間で共有されてはいないと思いますけども。川島先生と岩井先生と岡本先生でかっちりと認識が合致してるわけじゃないみたいだし。つ岡本隆司「朝貢と互市と会典」あんまし細かいこと言ってもしょうがないですけどね。

163頁:長期の歴史的趨勢を「正常」と措定して、19-20世紀の東アジアの歴史は「脱線」だったなど「的外れ」

166頁:「天下」の秩序はこの言語的限界の中で成立した。そしてこの秩序は、21世紀の現在、もうすでに失われて久しい。

いいねいいね、痛快です。

「第五章 アングロ・チャイニーズの世界」はかなり面白いです。
「中国」と中華人民共和国はイコールではないとかね。「華僑」の誕生とか、タイ王国における辮髪の意味とか。あと、目から鱗だったのは、張藝謀の「英雄」の含意とか。いやこれは自分で読んだ方がいいです。おすすめ。

もちろん、細かいこと言えばいろいろと突っ込みどころもあるんでしょうけど、いろいろ痛快でよかったです。
基本的に今後20年間くらいは中華人民共和国が強力なヘゲモンになることはないだろうということですが、本文中でもちょこっと書いてあったけど、中華人民共和国が強硬世論に押し切られて武力行使とかした日にはどうなるかはわかりませんね…。この可能性がゼロではないのが嫌なところですが、さて…。


読みながら、なんとなくちょっと気になったのは、中華人民共和国経済が一体のものとして扱われてることでした。いやそりゃ、一つの国ですし、GDPとか購買力平均とかそれで出てくるわけですからね。でも、内陸と沿海、あるいは大都市とそれ以外の従属地域で利害が違うと思うんだけどなあ。都市と農村ってだけではなくて、江蘇と河南とか、広東と湖南とかの間でいろいろあるんじゃないですかねえ。
まあ、そうはいってもどうやって分析するのよ、といわれると沈黙ですが…。