読書:安田浩一『ネットと愛国:在特会の「闇」を追いかけて』


ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

やっと話題の在特会がなんだかわかりました。もっと古くからやってるのかとおもっててたら、ニコ動よりも新しいんですね。
大変面白かったです。やはり細部がしっかりしていると、迫力ありますね。あと、著者の視点が大人でやさしかったです。やっぱり寄り添ってみないとなんだかわからないですよね。素晴らしいノンフィクションでした。ほかの著作も読んでみたいと思います。

まあ、何というか、金なくてコミュ障だと、まあいろいろ残念な感じになるのは、しょうがないですよね。ダメなやつはどこでもダメというか…。自分は、金もないし、コミュ障だし、ドロドロ誹謗中傷の言葉ばっかりが頭を巡ってるけど、ここにも入れないなあ、と思うと、もっとしょんぼりしますが。というか、疑似家族とかキモすぎる…。独りの何がいやなのだろうか…。
とまれ、在特会というのが、全く新しい現代日本における特殊な形態ではないことはよくわかりました。内実は、いわゆる陰謀論のよくあるパターンでした。結局のところ、被害者意識のなせる業、なのですね…。

世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ (講談社現代新書)

世界の陰謀論を読み解く――ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ (講談社現代新書)


在特会の方法に似たものは、現代日本にかなり満遍なく存在しているものであるということもよくわかりました。
あとは、こういう物言いを利用する立場の人が増えるとどうなるかですな(だれかが「動員」しないと、どんな思考も世の中にインパクトを与えることは無いんじゃないでしょうか)。なんせ、それを受け入れる素地は、日本にあるわけだからねえ(具体的には本書をお読みください)。身近にも、引っ掛かりそうなのはたくさんいますし。自分が手を染めないとも限らん…。

それでも経済がうまくいってりゃこういうことにもならないわけで、バブルと「失われた10年」の負の遺産というのは深刻であるなあと思います。(金持ち喧嘩せず、という言葉の深さが身にしみます)
早めに金融政策かけてりゃこんなことにならんかった、とも思いませんけど、それでも、たとい平均したらおなじだとしても、上がったり下がったりするもんだと思うか、下がりっぱなしだと思うかだと精神衛生的には全然違うよね…。うーん。結局、財務省・日銀批判か…。まあ別にこの問題は日本だけじゃなくて、どこも似たようなもんなんですが。20年たったら中国だってこうなるんだろうし。

あと、読み終わって表紙を眺めながら思ったのは、「ネットも愛国も実はツマなんじゃないか」(ついでにいえば「在日韓国・朝鮮人」も、本書の物語の中では実はそんなに重要ではないのではないか)ということでした。「ネット」も「愛国」も「在日」も「同和」も、実際にはどうでもよくて、いろいろ残念な人が、どうしようもなくなって暴れているというのが、全体的な印象でした。(暴れる気力があるだけマシかもしれませんな)(いや、あれは“暴れている”といえるのか?)
以下は、本書とは関係ないですが、特に思ったのがネット上で、ちょっと前に●●2.0が流行りましたが、プラットフォームが変わって、何かが変わるということはあんまりない気がするんですよね。その技術に関連した分野が拡大するので、景気刺激にはなるんでしょうけど。一次的で、ちょっとした習慣が変わるだけで、結局中身はあんまり変わらんというか、facebookとかモバゲーとかがビジネスを変えたというのも、正直嘘だと思うし…。投資とか雇用の在り方とか別に根本的には変らんし…(労働者なんてどんな形態でも大部分は使い捨てです。かけがえのないイキモノなんてこの世には存在しないんですよね…。)。ウェブは人間そのものを動かしてはいないので、新幹線で地方の空洞化が一気に進んだ、みたいなインパクトは、ウェブ上のサービスの出現のみではありえないんじゃないかなあ(要するに19世紀以来、うまく行ってない若者の憤懣ってのは、あんまり変わっていない気がしたのです)。
そんなわけで、「疎外」の概念を考えたマルクスも偉大だし、「自由からの逃走」を考えたフロムもやっぱり偉大だな〜、としみじみと思います。