安田峰俊『独裁者の教養』星海社新書、2011年10月29日


独裁者の教養 (星海社新書)

独裁者の教養 (星海社新書)

ネットで話題の本()、読了。
取材中のブログ(http://blog.goo.ne.jp/dongyingwenren)とかツイッターhttp://twitter.com/#!/dongyingwenren)を見てたので、やっと出たのか〜、というのが正直なところ。楽しく読みました。特にワ州旅行記
読みながら、まえに北京で見たテレビドラマを思い出しました。ビルマラオスの国境地帯の麻薬組織の中に潜入捜査で入って、なんだかんだで最後は殉職する刑事の話。西南国境は麻薬だらけってのは十分認識されてるんですな。その裏側ってことで結構いろいろ納得。

で、読了後、まず最初に思い出したのが、安冨歩 『生きるための経済学』 (NHK ブックス、2008年)。おそらく、自分の知識や経験を、自分人生に当てはめようとするところが似てるんでしょうな。しかし、いろいろ調べたり勉強したりした結果が、自分の社会や環境への適応の仕方に行きつくあたりが、正直困惑。そこで自分すら突き放さないと。人生のなんかうまく行かない感があって焦るのはわかる(自分もお金なくて病気しても医者にかかれなかった時期を思い出します…)。しかし、そこで自分を取り巻く社会に対して“物申す”のは、なんとも空しさを感じてしまう。なぜ著者は諦観ではなく、“物申す”のか?むしろ世の中は、“没法子”なんじゃないのかな…。大学の授業で見た、アメリカで貧困にあえぐ華人移民(社会的上昇に失敗した寡婦)が“沒辦法”って言ってたのを思い出します。いやもう、世の中なんて、どうしようもないんじゃねえの。自分だって今は仕事があるからいいけど、いつ貧困に陥るか正直全くわからんけど、こればっかりはどうしようもないからね…。怪我したり病気したりしたらそこでゲームオーバーなのが、人間のデフォルトですよ。
でも、南の暑いところで熱出してクレイジーになるあたりは、マカオで同じことやったことがあるから、よくわかる…。

著者は広大東洋史?の修士を出た方のよう。
あとバカっぽいレビューが出ててルイボスティー吹いたが、本書は学術書でも専門書でもなくて、ルポというか一般書である。むしろ、最新の研究状況を間接的にでも知っている大学院教育受けた人によってうまく利用してもらえれば、専門的な基礎研究もそれはそれで浮かばれますな。雲南軍閥とかの研究やってる人もいるので、そういう人の論文とかも引用されるようになったら、うれしいよね。ま、学術書も学術論文も、前提知らないとつまんないし、読むのに時間がかかるからなかなか利用されないとは思うけど。

あと、こういう本に学術的にどうだとか、専門的にどうだとかいうのはお坊ちゃんか、さもなくば単なるアホですな。

著者が、なんだかんだ言って中国が好きなのはよくわかった。あと加藤嘉一が気に入らないのもよくわかった(笑)俺もあのJiatengはなんだか気に入らないねえ。

独裁者列伝に関しては特にないけど、これ、どっちかっていうと教養足りない連中を、バカっぽいのから順に並べてるのはわざとだよね。

しかも、さりげなく褒められるホー・チ・ミンカストロ兄。せっかくなんでポルトガルサラザールとかも入れてあげて(笑)

とにかくワ州旅行記は非常に貴重なので、増補改訂版がほしい。ちょっと本人が落ち着いてから出たらうれしいですな。いやうまく出れば百年後には史料扱いの可能性もある、マジで。しかも自力で行くとか、これはほんと賞賛に値しますよ!(ガイドなしってことね。あ、経費は出版社もち?) 

とまれ次の本が出るのを楽しみにしてます。←これが大事なとこですな。いろいろ思うところはあったけど、次のを読んでみたいと思わせるものだったので、満足です。