「消費税が無敵艦隊を沈めた」???

タイトル見て、「ああ、ザ・シニューズ・オブ・パワーの話かあ、時期違わない?」とか思って中身見て愕然。こんなんだから増税になっちゃって、日本沈没なんだよ。#語るに落ちた日本死ぬ、じゃねえか(いってやったいってやった)。

元国税調査官が分析する「消費増税」のリスク 日本はスペイン無敵艦隊の「二の舞」になる

西洋史の人、仕事してくださいな。こんなんを蔓延させるようだと、学問分野の存在価値を疑われますよ。

・・・・以下:追記・・・・

いやね、消費増税アカン、というのはもちろん同意なんですよ。8%→10%でありがたいことは小銭使わなくて済む、だけじゃないですか。でも今電子マネー結構普及してるので、それもあんまりメリットとして意味がない。大体2%あげたくらいで、本当に日本の財政に対する信頼感が上がるわけないでしょ。消費冷え込むだけじゃないですか。増税、今はアカンやろ、と。

でも、その消費税あげたらイカンという主張をするのに、適当な歴史の話をまぶすのはダメでしょ。というわけで、ダメだな、と思った部分をメモ。

全体としては以下の通り。
問題点1:何でも今風の話にしすぎ。格差と消費税の話にしたいだけ。
問題点2:話がいちいち古い。王族への怨嗟でフランス革命とか、無敵艦隊はあっさり跳落とか、「オスマントルコ」とか、もう2016年でっせ。
問題点3:一国史観というか、いまどきどっかの財政の失敗だけあげつらっても理解は深まらない。

じゃあ、後は上げ足をとってまいりましょう。

1:「中世フランスの国家財政は「火の車」」
→そりゃ、中世ヨーロッパで「火の車」でない国なんてあるんですかね。みんな、アホみたいに金借りてるでしょう。

2:「タイユ税は主要な財源、ただし貴族などは免除されているため、格差が広がった」
→タイユ税は確かに主要財源で、貴族などが免除されているのは確かだけど、それで格差が広がるって何でしょ?もちろん、免税特権廃止や税負担平等化が議論されてるし、それはアメリカ独立戦争介入に伴う財政赤字の増大がきっかけだったことは確かですが、「免税特権を持つ貴族たちはますます富み、農民や庶民たちはどんどん貧しくなってゆく」のかは、別の話でしょう。むしろ、フランス革命の農村への波及の直接的なキッカケは、18世紀末の天候不順(で、しかも火山噴火絡み)による食糧危機だったというのは常識だと思うんですけど…。

3:「国王とその一族の贅沢な生活が、怨嗟の対象」
フランス革命で当初問題だったのは王政そのものではなく、啓蒙専制だと政策的に無理できないので、改革が必要という話だったとおもいますが…。だいたい、マリー・アントワネットの「パンがないなら…」は偽作だし、王族まで処刑しちゃったのは、ロベスピエールイカレてたから、というのは明治以来の常識だと思うんですけどね…。

4:「(スペインは・・・)17世紀中ごろには世界の覇権をイギリスに搶われてしまうのです」
→待って、オランダの立場は?英蘭戦争ってあったじゃないですか。17世紀はオランダのヘゲモニーが、って、ウォーラステインも言ってるじゃないですか!

5:「当時のスペインの消費税「アルカバラ」…」
→アルカバラカスティーリャ王国的には税収の大宗を占めることは確かだし、流通間接税がきわめて重要であり、かつ16世紀後半からそこに課税強化が行われることも確かですが。アルカバラ以外にもあったはず。つか、「中世イスラム圏から持ち込まれた」税制は、アルモハリファスゴalmojarifazgo(移出入関税)ではないのかいな。なんか、間接税と消費税がごっちゃな気がする・・・。

 参考:中川和彦「中世のカスティーリャの税制の素描」(『成城大學經濟研究 』(139), 9-34, 1998
 
6:「(間接税強化で)国王側としては「税収が増える」ことになります。ただ、一つの商品にこれだけ高い消費税が課せられるということは、当然、物価は上がるし、そうなるとゆくゆくは景気の低迷につながります」
→間接税が上がると、商品価格の一時的上昇を齎すことは確かですが、景気が低迷するとむしろ価格は低迷するものな気がするんですけど。そもそも、16世紀のスペインにおける物価上昇は有名な「価格革命」というヤツの一環で、貴金属流入に伴う貨幣供給増大によるもの(で、それによる流通の活性化で景気が上向き、それとどっちが先かわからないが人口も増えて、物価が上がる)です。このかん、新大陸の金銀を受け入れるスペインの契機がイマイチだったのは、当初は新大陸に農業国であるスペインから食料を輸出して新大陸の入植者に食わせていた(かわりに銀を受取っていた)のが、新大陸での開発が進み、自給体制が出来上がってスペインの食料が売れなくなり、しょうがないのでほかのヨーロッパ(特に北海周辺/その商業の中心が英蘭/しかもオランダが独立までしてしまう)の手工業製品を中継輸出するようになった、それではスペインには銀が落ちないので、スペインで暮らす人々の賃金は上昇せず、スペインは輸入する手工業品は価格が上昇してしまう、その結果、スペイン経済が弱体化してゆく、というお話であるはずです。

7:「消費税が無敵艦隊をしずめた」
→「無敵艦隊が急速に力を失っていったのは・・・スペインの財政悪化、国際収支の悪化が招いたこと」というのは、まあそうかな、と思いますがそれと消費税は関係ないでしょう。あと、「急速に」というのはよくわかんないですね。いつからどのようにダメになっていったのかがはっきりしないし。アルマダの海戦以降もわりと海軍力が保全されたということはウィキペディアにも書いてあるんですが、まあ、それもいつまでかよくわかんないので。とまれ海軍力の話をしてるのは、まあいいんですが、それよりもスペインの17世紀中葉のダメっぷりを示すのは、フランスに陸戦で負けまくってることだと思います。スペインは割合16世紀には陸戦も強いんですが、17世紀には上記の経済的な苦境も重なり、装備やシステムの改善ができずにフランスにボコボコにされ、18世紀のスペインはほぼフランスの属国状態、継承戦争でさらにションボリな感じ、という流れかと思います。

なお、以上の記述は、だいたい以下の書籍によっています。

スペイン・ポルトガル史 (新版 世界各国史)

スペイン・ポルトガル史 (新版 世界各国史)

近代ヨーロッパの覇権 (興亡の世界史)

近代ヨーロッパの覇権 (興亡の世界史)

財政=軍事国家の衝撃―戦争・カネ・イギリス国家1688-1783

財政=軍事国家の衝撃―戦争・カネ・イギリス国家1688-1783