読書:杉山正明『耶律楚材とその時代』

耶律楚材とその時代 (中国歴史人物選)

耶律楚材とその時代 (中国歴史人物選)

読みました。
金の最後の方であるとか、モンゴル帝国の最初の方であるとかの政治構造はよくわかりました。その点はいいんだけど、まあなんというか、その・・・。
タヌキもね、その昔、年上の漢人中心主義の革命派にはたくさん苛められましたから、まあ朱元璋とかシネ、とかよくわかるんですよ。孫文とかだいきらいやし。薩長尊王攘夷からコロリとイギリスに尻尾振るようになりましたが、滅満興漢のほうは、100年経ってもそのままチベットとかモンゴルでえげつないことになってるわけで。で、漢文化中心主義者みたいのが、「耶律楚材、文明的ィ〜」みたいになってるの、(宋代までは契丹を野蛮人扱いしてたくせに…と)イラっとするのよくわかるんですよね。ただね。

著者が耶律楚材を嫌いなのはいいんだけど、死人の人格批判し続けてどうすんのかね、と。
もちろん、耶律楚材が旧金領域で抜群の名家の出身で、本人の能力より、その家柄に意味があったとか、陳舜臣の描くような耶律楚材像はいくらなんでも万能すぎるだろ、とかはよくわかるんです。

あとね「今と当時では観念がいろいろ違う」と書いてあってフムフムと思ったあとで、「嫁と子供棄ててけしからん」とか書いてあって、「・・・」となるわけですよ。

いやね、「蘇東坡(ホントは蘇軾の親戚)の血を引く才女を二妻にしたんやで!うらやましいやろ!」とかいう感じはわからんでもないし、それで昔からの正妻を兄貴のところにおいてってしまうのは、今の感覚からすれば、「なにやっとんじゃ」と思いますけど、まあ、我々は当時の人じゃないんで、それがどうなのかはわかりませんやん(兄貴二人はエライ、とは思いますけどね)。今みたいな夫婦基本の核家族前提じゃないんで。

あとね、大家に対してこういうこと書くのは嫌なんだけど、本って、著者の思考の流れを後追いするもんじゃなくて、まとめて書くもんだと思うんですよ。
耶律楚材の悪口ぐわーっと書いて、「自分勝手な裏切り者」呼ばわりしてから、「お家の事情もあるかもしれんけど」とくると、ちょっとねえ・・・。
まあ、割と昔の本ですし、結局その辺趣味の問題なんで、いいっちゃいいんですが。