読書:『魏源と林則徐』

大御所の著作なんですけどね。末尾に著者の感想が入るのは、「世界史リブレット人」の一貫した編集方針なんですかね。80を超えた、と書かれると、どうしていいかよくわからない、というか年齢の問題じゃないよなあ。

感想よんで感じたのは矢野仁一の罪っすね。1943年の映画『阿片戦争』をみて林則徐を知ったそうですが、ここで展開される「麻薬であるアヘンを売りつけるイギリスは悪い奴!それに対して日本はイギリスを叩くアジアの盟主!(でもアヘンは売るぜ!)」っていう構図、言いふらしたの矢野なわけですけど。21世紀まで影響が残ってるんだから罪深いわ。まあ、もちろん矢野だけじゃないですけどね…。

証言 日中アヘン戦争 (岩波ブックレット)

証言 日中アヘン戦争 (岩波ブックレット)

で、内容を一読して一番思ったのは林則徐の部分イランやん、ということでした。形成官僚の話であれば、魏源だけでいいわけで、林則徐についても書け、という話を持ってった編集部のミスですよ。

つうわけで、後半で展開される魏源の思想については、「ちょっと理想化しすぎじゃね」「何でも先駆て」という点をのぞけば、そんなもんなんかなあ、と思ったりはしました。
1985年(ちょうど30年前!)の学術討論会の話が最新と読み取られかねない表現でつづられているのとか。うーん、まあいいか。

しかし、相変わらずこのシリーズで(『西太后』に続いて)ヤバいのは注釈とルビで、カタカナは日日本語、ひらがなは日本語の音読みみたいなんですけど、天津に「テンシン」とあったり、伊里布に「イリフ」とあったり、日本語の音読みじゃないすか、というのがありました。

あと29ページの注釈に「在任守制:丁憂守制ともいう。祖父母・父母の喪にあたる、官職ある者は任を解き喪に服すること。約二十七か月を満期とする。」ってあるんだけど、「在任」どうなってるんですか。
この説明は「丁憂」の説明です。「在任守制」は、父母に服喪して本来なら解任されて故郷に帰るんだけど、重要な立場にあってその職を去られるとこまる官僚に対して、皇帝がその職を継続して務めることを命じるものでしょう。いわゆる「奪情」じゃないすか。(期限の問題があるのでイコールではありませんが)。張居正のエピソードを著者が知らないわけないので、編集側でつけたんでしょうけど…。
こういうのがあると、著述に全般的に信用置けなくなるのです。なんか注釈もなんとなく歴史辞典をそのままコピペっぽいし…。むむーん。