読書:藤田覚『泰平のしくみ』

副題は「江戸の行政と社会」で、岩波市民セミナーで著者がお話になった内容に大幅に加筆したものだそうです。読みやすい。

泰平のしくみ――江戸の行政と社会

泰平のしくみ――江戸の行政と社会

取り上げられるのは、「請負と入札」、「民間の献策」、「示談」、「根回し」、「都市行政」でした。まあ、昭和的なものはだいたい江戸時代からあるという話ですね。相手のメンツとかもあるので、いろいろ先に決めとかないと、というのは平和な世の中ならではだよな、と思いました。

で、本書は、あとがきにもあるように、村とか町とかの共同体の内部結合の強さが強調されるのですが、一方で、幕府の行政の担い手が、共同体からの要求や提言にきめ細かく対応しようとしていた事例が取り上げられています。もちろん、共同体の要請を無視して、結果暴動が発生しちゃう場合もあったわけですが。

それにしても、18・19世紀の日本ってのは行政と「民」が近いんですねえ…。
あと、「民」は割と自己主張をするわけなんだけど、だからと言って議会みたいなかたちの凝集にはいかないんですよね。上のほうは世襲でよし、と。月並みだけど、外側がなくて安定した一個の世界になってたんですかね、江戸時代。(なんかどっかで見たことある話だな…)


戦後日本がある種の「世界」として外界から独立してたって感じはあるので、昭和と江戸時代が似るのは当たり前なのかもしれないなあ。決まったパイを中で分けるのにいちいちケンカしてるのは無駄だもんなあ。
とすると、武陵桃源も実在すればこんな社会なんですかね。うーん、ブータンも思い起こされるな…。
気になるのは、これ、どうやると、これが崩壊するのか、ということなんだけど、割合、限界集落化して、人がいなくなるくらいのことがないと、あんまり変わらんのかなあ、という気もしますね。

ともかく、著者の藤田先生は、江戸時代をポジティブに描いているように読めるのですが、何となく皮肉なんじゃないかなー、みたいなところもありました。
たとえば遠山景元の奉行かくあるべじみたいな意見(199−205頁)こういう、規範が成立するにはいろいろあるとおもうので、遠山みたいな名奉行がいたので江戸の平和は安泰じゃ、みたい時代劇的なのは、絶対裏があると思っちゃうんだよなあ。読みすぎかしら。